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IoTシステムを構築する際に、エッジコンピューティングの採用が進んでいます。当記事をご覧の方の中には、エッジコンピューティングがどのようなもので、導入するとどのようなメリットがあるかを知りたい方もいるでしょう。
そこで今回は、IoTシステムにおけるエッジコンピューティングについて、そのメリットや導入時の課題と解決方法などを解説します。エッジコンピューティングシステムの事例も紹介するので、エッジコンピューティングについて知りたいという方は、参考にしていただけたらと思います。
新規でIoTシステムを構築する際に選択肢の一つとなる「エッジコンピューティング」の考え方が注目を集めています。エッジコンピューティングとは、センサやIoT端末などのエッジデバイスそのものでデータ処理・分析を行う概念のことです。
IoTシステムは、センサなどで取得したデータの処理をどこで行うかによって、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングに分類できます。
多くのIoTシステムは、クラウドコンピューティングで構築されています。クラウドコンピューティングは、センサなどのエッジデバイスで取得したデータをクラウドに集約し、クラウド上でさまざまな処理を行うシステムです。
例えば、ネットワークカメラはエッジデバイスであるカメラで撮影した映像をクラウドに集約するため、クラウドコンピューティングの事例となります。
一方でエッジコンピューティングは、取得したデータの処理を、データを取得したセンサなどのエッジデバイス側で行います。取得したデータを処理した後に、必要最低限のデータのみをクラウドに送信します。
例えば、Amazon echoは機器自身がエッジデバイスとなっており、内蔵しているマイクで収集した音声をAmazon echo内部で処理し、音声認識を行っているため、エッジコンピューティングの技術が用いられています。
クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの違いは、単にデータ処理を行う場所の違いのみで大差がないように感じるかもしれません。しかし、構築するIoTシステムの用途によっては、エッジコンピューティングのほうが優れているため、注目を集めています。
近年はIoTの普及により、さまざまなシチュエーションでIoTシステムの導入が進められています。例えば、クラウドとやり取りするデータの量が膨大なシステムに加えて、センサで取得したデータを速やかに処理する必要がある「リアルタイムアプリケーション」と呼ばれるシステムなどがあります。
しかしこれらのシステムをクラウドコンピューティングで構築しようとしても、通信負荷やクラウド側での処理負荷、通信による遅延などが課題になり、意図通りの性能を実現するシステムが構築できない場合があります。これらの課題を解決するために、エッジコンピューティングが注目を集めています。
エッジコンピューティングの採用により、クラウド側へのデータ通信負荷低減や処理時間の短縮が実現可能です。また、システムを構築する際の観点では、エッジデバイスの高性能化や小型化、省電力化、低コスト化などが進んでおり、システム構築におけるコストの低減などが進んでいます。
このように、IoTシステムの適用範囲が拡大し、さらにIoTシステム構築時の構成部品が高性能化、低コスト化したことで、エッジコンピューティングが注目を集めています。
IoTシステムを構築する際にエッジコンピューティングを採用することで、主に次の4つのメリットが得られます。
それぞれ、順番に解説します。
一つ目は、エッジ・クラウド間におけるデータ通信時の遅延が少なく、リアルタイムでのデータ処理が可能な点です。
従来のクラウドコンピューティングでは、すべてのデータを送受信し、クラウド上で必要なすべての処理を行っていました。一方でエッジコンピューティングでは、エッジデバイス側で処理を行い、必要最低限のデータのみをクラウドと通信します。
エッジ・クラウド間の通信量や通信回数を削減できるため、通信負荷やクラウドでの処理負荷による遅延を抑えることが可能です。
また、迅速なデータ処理が必要なものをエッジデバイスで処理し、それ以外の迅速な処理が必要でないものはクラウド上で処理するなどの工夫を加えることで、リアルタイム性を確保しやすくなります。
二つ目は、エッジコンピューティングでは、複数のエッジデバイスを使用する場合、それぞれのデバイスでデータ処理を行うことが可能な点です。
クラウドコンピューティングでは、クラウドだけで行っていた処理をそれぞれのデバイス側で行うため、デバイス間での分散処理を実現し、クラウド側の処理負荷を低減できます。それにより、必要なデータ授受などのトラフィックを最適化できるため、故障時の可用性向上やトラフィックの最適化などが実現可能です。
三つ目は、大規模システム構築時の通信コスト削減です。
クラウドコンピューティングで大規模なIoTシステムを構築する場合、クラウドとエッジデバイス間での通信データ量が膨大になります。データ量が大きくなることで通信負荷も大きくなるため遅延が発生しやすくなったり、暗号化の対象データが増えるため、暗号化を行う際の電力消費が大きくなったりします。
エッジコンピューティングを採用する場合には、エッジデバイスで処理された結果のみを通信するので、通信データ量の削減とともに、通信負荷や電力消費なども低減することが可能です。
また、通信するデータ量が少なくなれば必要となる通信環境のスペックも抑えられるため、通信に関するコストを全体的に低減できます。
四つ目は、エッジコンピューティングでは、クラウドコンピューティングに比べてセキュリティやBCP対策などを強化できる点です。
セキュリティ面に関しては、クラウドコンピューティングに比べてエッジコンピューティングでは処理後の結果だけを送受信するため、通信するデータ量が少なくなります。収集したデータすべてを通信する場合には、機密性が高いデータが含まれてしまう可能性が高いですが、処理後のデータであればデータ処理の過程が分からないため、仮に流出してしまったとしても影響を最小限に抑えられます。
BCPとは、災害やテロ攻撃などの緊急事態に中核となる事業を継続、速やかに復旧させるための事業継続計画のことです。IoTサービスへのエッジコンピューティング採用は、BCPの観点でもメリットがあります。
クラウドコンピューティングのサービスでクラウドが故障した場合、すべてのデータ処理が停止してしまうため、すべてのサービスを提供することができなくなります。故障の部位によっては、それまでに蓄積したデータが失われ、エッジデバイス側にデータが残っていたとしてもクラウド復旧後に、クラウド側で再度処理を行う必要があるため時間がかかります。
一方でエッジコンピューティングの場合には、クラウドが故障したとしてもエッジ側でデータ処理を行っているため、エッジ側だけで完結する機能は継続できます。また、処理されたデータがエッジ側に保存されていれば、クラウドの復旧と共にサービスの再開も可能です。
このように、エッジコンピューティングの採用はセキュリティとBCPの両面を強化する案の一つとなります。
クラウドコンピューティングに比べてセキュリティを強化しやすいエッジコンピューティングですが、具体的にはどのような対策が考えられるのでしょうか?ここでは、クラウドコンピューティングにも活用できる、以下の2つの対策を紹介します。
エッジデバイスはシステムの外部と接続したり、情報をやり取りする必要があるため、セキュリティが強固でない場合があります。特にエッジデバイスを多く使うシステムの場合にはセキュリティを突破される可能性があるため、セキュリティ対策が必要不可欠です。
仮にエッジデバイスのセキュリティが突破されたとしても、そこからクラウド側に影響が及ばなければ、突破されたエッジ部分だけに影響を限定できます。そのために、用途に応じた通信プロトコルの使い分けなど、通信の暗号化が推奨されています。
具体的にはSSL/TLSなどで暗号化する手段が考えられますが、暗号化を行う場合、通常よりも消費電力が大きくなる点には注意が必要です。エッジコンピューティングの場合には暗号化するデータの総量を小さくできるため、消費電力に対する影響を限定できます。
セキュリティ対策として近年注目されているのが、ゼロトラストセキュリティモデルです。その名の通り「信用をせずに常に検証をする」という考え方で構成されています。エッジデバイスとクラウド間のすべてのやり取りをその都度認証しつつ記録し、必要最低限の情報のみ閲覧を許可するようなモデルです。
仮にエッジデバイスに不正アクセスがあったとしても、クラウド内の認証された部分しか閲覧することができず、不正アクセスによる被害を限定できます。
従来から行われてきた境界型のセキュリティ対策は、コロナ禍による適用範囲の拡大により限界に近付いていると認識されています。それを根本的に解決するための手法として、ゼロトラストセキュリティモデルへの注目は大きくなっています。
IoTを導入する際にエッジコンピューティングについて調べていると、エッジAIというワードが出てくることがあります。エッジAIとは、AIの学習モデルを用いてエッジデバイスで推論を行うことです。
例えば、自動運転車では周辺環境の認識をエッジAIが行いますし、金融サービスでは端末のセキュリティ強化に活用できます。また、機械制御などに活用することも可能で、認識をするセンサなどのエッジデバイスやAI技術の進歩により、エッジAIの活用範囲は広がり続けています。
エッジコンピューティングは有用なシステムですが、導入に対しては課題もあります。
代表的な課題は、クラウドコンピューティングに比べてエッジデバイス側での処理が複雑になるため、通信以外のシステム構成が複雑になり、システム導入時やメンテナンスなどの運用コストが高くなりがちな点です。特に、運用コストは定期的にかかる費用であるため、影響が大きくなります。
運用コストの低減に向けては、エッジデバイスを海外などの遠隔地に設置する場合でも、メンテナンスやトラブル対応の際に都度出張するのではなく、現地で対応できる仕組みを作ることが重要です。
そのためには、マニュアル作成などを行う必要がありますが、メンテナンスだけでなく次のシステムを構築する際にも活用できるようにすると効果的な資料になるでしょう。
エッジコンピューティングを自社単独での導入が難しい場合には、提供されているソリューションを活用できます。代表的なソリューションとして、インテルの事例を紹介します。
インテルは、医療データの収集や分析、合成の効率向上を目的とした医療向けのエッジコンピューティングソリューションを提供しています。また、IBMはエッジコンピューティングを活用して企業の効率化を加速させるエッジ・コンサルティング・サービスを提供しています。
このように、エッジコンピューティングに関するサービスを提供している企業があるため、自社の用途に合ったサービスを提供している会社に協力を依頼すると、導入をスムーズに進めることができるでしょう。
IoTにおけるエッジコンピューティングの活用は徐々に進んでおり、今後はさらに拡大していくことが考えられます。そこで、導入を検討する際に参考にできるように、採用が広がると考えられる製造業のエッジコンピューティングの事例を2つ紹介します。
一つ目の事例は、エッジデバイスにAIカメラを用いて検査工程を自動化するためのエッジコンピューティングシステムです。
製造業において、異常品を流出させないためには出荷前の検査が欠かせません。しかし、検査工程は自動化が難しく、作業者によって行われるのが一般的でした。特に目視検査の場合には、判断基準が明確でない場合も多く、カメラで撮影した画像を用いても自動判別できないことが多くありました。
近年は、カメラ自体の性能向上に加えて、撮影した映像の加工、認識技術が飛躍的に進歩しています。その結果、従来は職人にしか見分けられなかった正常品と異常品の違いを自動で見分けられるようになりました。
エッジデバイスであるカメラで完成品の撮影と画像処理、さらに正常異常の判別までして、それを集約するためのクラウドに送信。クラウド側では受信したデータを記憶、保存し、管理者に分かるように表示するようなエッジコンピューティングシステムが構成できます。
製造業の事例として紹介しましたが、カメラで撮影した画像・映像を元にして、何かを判断するようなシステムであれば、応用が可能です。
二つ目の事例は、エッジデバイスとして振動を測定可能なセンサを用いた、産業用機器や工場設備などの予知保全・診断システムです。
自動化された製造工程の場合、自動制御中に設備本体や加工工具が故障してしまうと製造中の製品だけではなく、設備本体の故障に繋がる可能性があります。一方で、定期的な工具交換は生産効率や工具効率の悪化に繋がるため、故障に近いタイミングを検出したいという強いニーズがあります。
各設備にエッジデバイスとして振動センサを設置し、それぞれの設備に振動データの収集及び解析までエッジデバイス側で行います。工場全体の設備について解析後の情報をクラウドに集約し、一括でモニタ、工具交換タイミングの判断を行うようにエッジコンピューティングシステムの構築が可能です。
このように、センサなどのエッジデバイス側で情報収集からある程度の処理を行い、それをクラウドに集約して活用するようなシステムは、次第でさまざまなシーンで活用できます。
IoTにおけるエッジコンピューティングは、エッジデバイスであるセンサの技術開発が進むにつれて、広く採用されるようになっています。エッジコンピューティングの導入が効果的な事例としては、データ量が大きくそのままだと通信負荷が大きい場合やデータ処理にリアルタイム性が必要な場合が挙げられます。
今回は製造業における事例を紹介しましたが、使用するエッジデバイスはさまざまなものがあるため、アイディア次第で自社の目的に合ったエッジコンピューティングシステムが構築できます。
自社単独での検討、導入が難しい場合には十分な知識を持った専門家に相談するといいでしょう。