事業内容
- DX推進/IoT開発事業
- AI/ROBOTICS開発事業
生産性や品質向上に加え、製品ライフサイクルの短期化に伴う仕様変更への追従性など、工場への要求は年々厳しくなっています。当記事をご覧の方の中にも、これらの課題に直面し、解決策としてスマート工場化の検討をしている方もいるでしょう。
そこで今回は、「スマート工場の概要やメリット、導入の流れ」について解説します。また、経済産業省が公開しているスマートファクトリーロードマップや成功事例についてもあわせて紹介するため、どう取り組めばいいか悩んでいる方は参考にしていただけたらと思います。
スマート工場とは、さまざまなデジタル技術を活用することで、生産効率の向上や品質の安定化、効率的な技術承継などを実現しています。スマート工場に適用されるデジタル技術とは、生産設備や工作機械のIoT化に加え、ロボットやAIなどの新しい技術をさします。
デジタル技術を効果的に活用するスマート工場について、世界的に注目が集まっています。
スマート工場は、インダストリー4.0の中心的な役割を担う考え方として知られています。
インダストリー4.0とは、欧州の製造業大国であるドイツが提唱する概念で、相互運用性、情報透明性、技術的補助、分散型決定という4つの設計原則に基づいています。
※サイバーフィジカルシステムとは、現実の情報を仮想空間に取り込み、AIなどのデジタル技術を活用して分析を行い、現実世界にその結果をフィードバックするシステムです。
インダストリー4.0より包括的な概念である、ソサエティー5.0が日本の内閣府により、提唱されています。
スマート工場を構成するデジタル技術には、さまざまなものがあります。
イメージしやすいのは、IoTやAIではないでしょうか。それ以外にも、ロボット、ビッグデータ、3Dプリンターなどの生産技術などが挙げられます。
このようなデジタル技術を、状況に合わせて活用できるように導入することで、スマート工場を実現しています。
スマート工場を実現したい企業は、以下のような課題の解決を目指しています。
日本では、少子高齢化による人手不足が深刻化しています。各企業は労働条件の緩和やダイバーシティ人材の活用などに取り組んでいます。工場でもロボットやAIの活用により、省力化や、作業者のスキルに依存する部分が減り、人材の有効活用が可能です。
センサやAI、ロボットを活用することで、従来は人が行っていた検査などの作業を自動化することが可能です。人為的なミスを排除することが可能であり、特に高い集中力が必要とされる作業において品質の安定化が期待できます。
また、生産の過程でさまざまなデータを蓄積し分析することで、品質トラブルの原因となる生産上の課題を抽出でき、それを解決することで品質の向上を実現できる場合もあります。
日本政府は、従業員の働き方改革を推進しており、各企業の工場でもさまざまな施策が進められています。
スマート工場で作業の省力化やIoTの活用による設備の遠隔監視、遠隔操作ができるようになれば、従業員の働き方が柔軟になることが期待されます。例えば、夜勤に必要な人員の減少や設備管理業務の在宅勤務などが実現できるかもしれません。
長い年月をかけて培われてきた熟練の職人が持つ技術は、その承継に時間がかかります。また、人材が不足していることから、そもそも承継する人材がいないということも考えられます。
熟練工が製造する際の操作による設備の動きや完成品の寸法などをセンサやAIを活用して計測、分析を行うことで優れた技術を数値化します。それらを記録することで、「作業の標準化・マニュアル化」が可能になります。他の技術者の教育にも活用することができ、遠隔地での技術承継や承継に必要な期間の短縮に繋がるでしょう。
ここで、経済産業省が2017年に公開したスマートファクトリーロードマップについて確認します。そのロードマップには、「ものづくり企業は、将来のものづくりの姿に向けて、以下の7つの戦略課題に対応することが求められている」と記載されています。
出典 経済産業省「 スマートファクトリーロードマップ 」〜 第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて 〜
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不良率の低減や品質の安定化、ばらつきの低減、設計品質の向上を目的としています。
これらを実現するための手段として、作業者の作業内容や設備の稼働状態をセンシングし、その結果に基づいて作業手順の改良や加工条件の最適化を行うことが提案されています。
生産リソースや材料使用量の低減、在庫の削減、設備の管理・状況把握を目的としています。
目的を達成するためには、生産管理システムのデータ活用やシミュレーションの活用により、コスト削減に向けた取り組み内容を明確にするのが効果的です。
作業者や設備の稼働率の向上、作業者の負荷低減、設備の故障削減などを目的としています。
設備へのセンサ取り付けによる情報収集や生産管理システムを活用することで、作業内容の最適化や稼働率の向上を実現できます。
開発や設計の自動化、仕様変更への対応迅速化、生産ラインの設計や構築期間の短縮を目的としています。
期間短縮を実現するためには、解析ソフトやシミュレーションソフトの活用、BOM(部品表)の導入などにより、設計の自動化や対応時間の短縮に繋がります。
多様な人材の活用や技能の継承を目的としています。
例えば、従業員別の熟練度データベースを構築すれば、人材育成の方針が明らかになります。技能継承の際にはヘッドマウントディスプレイやウェアラブルデバイスなどの先進デバイス、スマートロボットの活用により、目的を実現できる可能性があります。
顧客ごとに個別化した多様なニーズへの対応に加えて、新たな製品やサービスの提供、機能向上を目的としています。
製品を機能ごとにモジュール化することによるフレキシブルな生産体制や製品へのセンサ、通信機能の搭載などにより、要求を実現することを目指します。
製品にRFIDや通信機能を搭載してトレーサビリティを管理できるようにすることで、リスク管理の強化に繋がります。
製品に不具合が発⽣した際には、製品や資材に蓄積されたデータを分析することで、不具合の原因の特定を早期化できます。
また、影響範囲を最小化できるため、影響を受けるユーザーのみに対して対策を講じることができます。
スマート工場を実現するためには、以下のような手順で行うといいでしょう。
まずはスマート工場の実現によって解決したい課題を選定しましょう。もし、自社のメンバーで明確な課題が思い浮かばない場合には、紹介したスマートファクトリーロードマップを参考に抽出するのがおすすめです。
いくつか課題が抽出できたら、対策に必要な費用や工数、対策で得られる効果などを推定しながら優先順位を設定します。
課題と優先順位が明確化できたら、どのようなデジタル技術を用いて解決していくのか、その手段を選定します。既に紹介したように、IoTやAI、ロボット、ビッグデータなどさまざまな手段があるため、こちらもロードマップを参考にするとイメージしやすいでしょう。
解決手段の中には、IoTなどネットワークを活用する機会が多くあります。その場合には高いセキュリティの確保が必要不可欠です。セキュリティが十分確保できていない場合、外部からのサーバー攻撃などで多大な影響を受けるおそれがあります。
セキュリティ確保の目途が立ったら、課題の解決手段となるAIやIoT、ロボットなど、デジタル技術の導入を進めます。導入する際には、一度にすべて完了させてしまってから確認するのではなく、想定通りに動いているかどうかを細かいステップで確認すれば手戻りを減らせます。
解決手段の導入が完了したら、当初の目的であった課題を解決できているかの検証を行います。十分な効果が得られていない場合やさらなる効果が見込める場合には、改善を行う必要があります。
また、期待通りの効果が出たものに関しては、他の工場や他のラインなどへ展開できないかどうか検討することが重要です。
大きなメリットがあるスマート工場ですが、実現するためには課題や注意点があります。
スマート工場を実現するためには、目的に応じてセンサやツール、設備、プログラムなどを新規に導入する必要があります。優先順位をつけずに思いついたものをすべて導入しようとすると、莫大なイニシャルコストが必要になります。
イニシャルコストを抑えるためには、改善すべきポイントの明確化や使用する部品の検討によって、優先順位を付ける必要があります。コストを抑えて小さく始めれば、リスクを低減できるでしょう。
デジタル技術を効果的に扱うために、社内での推進活動を行うデジタル人材が必要です。あらかじめ社内に知識を持った人材がいない可能性が高いため、専任の人材を置き、外部の専門家とのやり取りなどを通して、時間をかけて育成を行うといいでしょう。
スマート工場を実現するために新たに導入した設備やツールは、定期的なメンテナンスが必要であり、そのたびにコストが必要です。特に、従来扱ったことのないものを導入した場合には、適切なメンテナンス方法に関する新たな知識も必要不可欠です。
最後に、スマート工場の成功事例を3つ紹介します。
生産設備や作業者の稼働率向上を目的に、制御プログラムを自動で生成できるようなロボットのシステム開発やIoTを活用した工場設備の監視システムを導入しました。
開発や製造時のデータから製造時の製品状態を予測し、設計値と実力値の差を現場にフィードバックする仕組みを構築することで、人とロボットが協調するものづくりを実現しています。
リアルタイム性が必要な処理を行う場合、センサで取得した生産設備の情報をクラウドに集約・処理し、その結果を受け取ってから処理を行うのでは遅い場合があります。
そこで、センサ側で処理を行うエッジコンピューティングを採用することで、設備へのフィードバックサイクルの高速化が可能になりました。
電子部品に使用する希少金属の収率改善を目的として、これまでの生産時に取得し続けてきた生産条件と収率に関するビッグデータに着目しました。
AIによるデータの分析結果を鵜吞みにするだけでなく、これまでの経験から得られる独自の解釈を加えることで、頭打ちになっていた収率の工場を実現しています。
製造業では、新製品の開発や低コスト化に関する競争が激しくなっている状況です。さらに、さまざまな業界で人員不足が顕著になっている状況において、デジタル技術を活用した「スマート工場化」の実現は大きな希望となっています。
課題に合わせて適切な選択肢を取ることで大きな効果が期待できますが、コストや人員など解決が必要な課題も多くあります。まずは、適用範囲を小さく始めて、成果を出しながら拡大していく方針で進めるのがいいでしょう。